#02
プロジェクトの現場最前線

長久手に深く根ざした、新たな「まちづくり」
中北薬品は、長年培ってきた医療や福祉に関する知見をもとに地域と連携し、住民の方々が安心して健康に暮らすことのできる「まちづくり」を推進している。ここでは、愛知県長久手市での「まちづくり」の例をご紹介しよう。

MEMBER
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営業
佐橋 康仁
2006年入社
経営学部卒。入社以来、愛知病院営業部に所属し、県内の医療機関への医薬品などの営業を担当。今回の長久手市における「まちづくり」プロジェクトの中心的人物。
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管理栄養士
鈴木 麻由
2016年入社
家政学部卒。管理栄養部に所属。半田支店での駐在を経て、松軒支店に異動した後にこのプロジェクトに参加。産休・育休を経て復帰し、現在も第一線で活躍中。
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管理栄養士
稲生 梨紗子
2019年入社
家政学部卒。就職にあたっては、管理栄養士として臨床に携わるのではなく、幅広い世代を対象に予防業務に関わりたいと中北薬品へ。1年目から本プロジェクトに参加。

長久手市とのパートナーシップの構築
愛知県にある長久手市は、名古屋市の東部に位置する、人口6万人ほどの自治体。他の多くの自治体と同様に、高齢者をはじめとする住民の健康増進に課題を抱えており、その解決に向けた官民連携を積極的に進めている。こうした環境のもと、中北薬品の「まちづくり」の取り組みがスタートした。
Phase 01
中北薬品の強みでもある「栄養」の知見を突破口に
長久手市との「まちづくり」のプロジェクトが動き出したのは、2010年代の後半。そのきっかけを最初につくったのは、医薬品の卸営業の第一線で活躍していた佐橋だ。彼はこう振り返る。
「当時より中北薬品は、医薬品卸の枠を超えて地域の健康に貢献する『まちづくり』を掲げていました。それを実現するために、まず自治体と包括連携協定(※)を結ぶことを目標にしていましたが、新たな取り組みであったため手探りだったのが実情。私も営業活動のかたわら、自治体との関係づくりに努めていました。そんな折、担当していた長久手市内の愛知医科大学病院の栄養課のイベントに、中北薬品をアピールしようと企画して出展したところ、参加されていた長久手市役所の方の目に留まり、地域の健康に関して意見を交換する機会を得たのです」。
そこで佐橋が感じたのは、長久手市が抱える課題に中北薬品が十分に応えられるということ。住民の方々の暮らしを支えていくためには、医療や介護を充実させることはもちろん、健康な身体を維持していくための栄養に関する支援も必要である。そこに彼は光明を見出した。
(※)自治体と民間企業などが、地域が抱える課題の解決に向けて相互に協力していくための協定。特定の事業分野に限らず、多岐にわたる分野において連携事業を継続的に推進することを目的としている。

「当時、長久手市役所は管理栄養士の資格を持つ職員が在籍しておらず、栄養部門が手薄でした。一方、中北薬品は自社で管理栄養士を多数抱えており、それが強みにもなっている。当社の管理栄養士が、住民の方々へ栄養指導や情報提供を行うことで地域に貢献できるのではないかと提案したところ、長久手市役所に受け入れていただき、関係性を築くことができたのです」。
それを発端に、地域のなかで中北薬品が提供できる事業を開拓しようと佐橋は奮闘。しかし、自治体との協業で実績のない中北薬品が行政に入り込むのは難しく、1年ほど進展しない時期が続いた。それでも粘り強くリレーションを深めていったところ、市役所の方から、長久手市の第三セクター「株式会社長久手温泉」にて健康事業を手がけるキーマンを紹介いただき、それが大きな転機となった。その方は運動指導が専門で、栄養に関することにはあまり知見をお持ちでなかったため、「中北薬品の力を借りたい」とのこと。そこで管理栄養士を派遣し、栄養関連の事業を受託することになったのだ。
Phase 02
住民の方々と家族のような関係になって地域に貢献
地域住民の健康を栄養の観点から支えていく、その役を務めたのが、管理栄養士の鈴木と稲生だ。鈴木は、この事業に関わることがとても楽しかったと言う。
「栄養や食事についての講座を定期的に開催することになりましたが、たとえばクイズ形式を取り入れて講座を楽しめるようにするなど、自分なりにいろいろと工夫して運営。最初はあまり心を開いてくださらなかった方とも、回を重ねるごとに親しくなり、私のことを頼ってくださるようになりました」。
一方、稲生は入社当初からこのプロジェクトに関わり、事業の立ち上げにも力を振るってきた。
「長久手温泉からのご要望を受けて、どんな事業にすれば利用者の方々のお役に立てるのか、こちらで考えて企画していきました。そして、栄養講座と運動を組み合わせたコンテンツや、栄養の観点から高齢者の方々のスーパーでのお買い物を支援するプログラム、高齢者に多くみられる疾患に合わせた栄養講座と料理教室などを次々と開催。こうして自分の思いが形にできることにやりがいを感じながら、長久手市での事業に取り組んでいました」。
地域に深く入り込んで住民の方々と密に交流し、まさに中北薬品が目指す「まちづくり」を体現していった鈴木と稲生。その過程で、二人は従来の管理栄養士業務では味わえないような経験を得たと語る。鈴木はプロジェクトの途中で産休に入ることになったが、妊娠中は講座のたびに住民の方にお腹を撫でていただき、最後の講座では参加者の方と記念撮影をしたとのこと。
「みなさん自分の祖父母のように、我が子の誕生を喜んでくださりました。復帰後も温かく迎えてくださり、こうした関係を多くの方々と築きながら地域の役に立っていくことも、中北薬品の『まちづくり』ならではだと思います」。
稲生もまた、地域における自分の存在価値を実感し、仕事へのモチベーションをますます高めている。
「さまざまな事業に携わるうちに、私の名前を知っていただけるようになりました。最初は『中北薬品さん』と呼ばれることが多かったのですが、いまでは市役所の職員の方や住民の方にも『稲生さん』と親しみを込めて呼んでいただき、地域で認められる存在になれたことをうれしく思っています」。
Phase 03
この長久手市での取り組みから「まちづくり」の成功モデルを
「このプロジェクトを成功させるうえで、管理栄養士の彼女たちの力がとても大きかった」と佐橋は言う。こうして、中北薬品が強みを持つ栄養面からの健康事業で実績を積み上げていったものの、本来の目標である包括連携協定の締結に向けては、まだまだ乗り越えなければならないハードルがあった。
「自治体側は、包括連携協定を結ぶことで市民にどんなメリットをもたらせるのか、説得力のある根拠を求めています。私たちもそのことを強く問われ、懸命に考えては提案書を作成して市役所を訪問。そこで問題点を指摘されては持ち帰り、メンバーで話し合っては再提案を繰り返す日々でした。鈴木さんや稲生さんとも議論し、『中北薬品の価値を誰もが一目でわかる、印象的なキャッチコピーを掲げよう』というアイデアが浮かび、編み出したのが『栄養と健康のコンシェルジュは中北薬品』というフレーズ。このキャッチコピーが表すメッセージが市役所の方々に刺さり、一気に話が進みました」。
こうして2022年春、長久手市と中北薬品は、市民の健康づくりと地域包括ケアシステムの推進のための包括連携協定を締結。「まちづくり」の取り組みは新しいステージに入った。
中北薬品の「まちづくり」の真髄とは? それは、医薬品卸事業で築いてきたネットワークをもとに、地域を深く理解し、地域に根づいて細やかな支援ができることだと佐橋は言う。
「今回の長久手市との包括連携協定締結を機に、可能性が大いに広がりました。これまでは高齢者の方々への健康事業が主でしたが、長久手市は若いファミリー層の人口も増えており、栄養面からの子育て支援や、さらに健康イベントなどを通して世代間の交流も活発にして、地域全体を元気にしていきたい。住民視点で実行できることはまだまだたくさんあり、これからが大いに楽しみです」。
稲生は引き続き、住民の方々への健康事業に力を注いていきたいと意気込んでいる。
「中北薬品が目指す『まちづくり』をかなえるためには、医療従事者の方々との連携も大切です。これから地域のみなさんに本当に信頼される存在となって、草の根レベルから私たちが医療従事者の方々をつないでいきたい。今回の長久手市での取り組みを通して、まさにそれができる手応えを感じています」。
一方、鈴木はまた違った観点から、中北薬品の「まちづくり」の価値を高めていきたいと語る。
「私は『まちづくり』を担える管理栄養士をもっと増やしていきたいです。管理栄養士を志す地域の学生にもインターンシップのような形式で『まちづくり』に参加いただき、人を育てることで地域の健康に貢献していきたいと思っています」。
自分が考えたことを社内に発信すれば、実行に移せる機会が与えられる。それが中北薬品で働く魅力だと三人は語る。この長久手発の「まちづくり」はいま全社に波及して他の自治体との連携も進んでおり、社会における中北薬品の存在価値をいっそう高めていこうとしている。
